本研究は、食品、大気中等から日々摂取する毒性物質の毒作用の予防、すなわち、化学予防を目指して立案された。ヒトが生活する上で、摂取を避けることができない毒性物質の限局された例が内分泌撹乱作用を示す物質や発癌物質である。乳癌の発生率が欧米人に比べ日本人は低く、その要因の一つとして、豆腐や味噌に含まれるイソフラボノイド(ISO)であるゲニステイン、ダイゼインの摂取量が多いことが指摘されていることが本研究の着眼点となった。申請者は、ISOが植物エストロゲンとして内分泌撹乱物質の一つに分類されていることに注目した。内分泌撹乱作用を有すると考えられる物質のスクリーニング系としてヒト乳癌由来MCF-7細胞を用いたE-スクリーンが考案された。本年度、そのE-スクリーンで陽性という指標である細胞増殖作用に伴って惹起されるエストロゲン応答性遺伝子pS2の発現誘導作用を測定する系を樹立した。また、申請者の別の着眼点は、食品中に含まれるヘテロサイクリックアミンの代謝活性化に関与するヒトフェノール硫酸転移酵素(P-SULT)の阻害剤として用いられているケルセチンに基づくものである。すなわち、大腸発癌の一段階で役割を果たすと考えられるP-SULTに対する、ケルセチンと類似の構造を有するゲニステイン、ダイゼインの抑制作用を調べる。今年度、大腸菌に発現させたヒトP-SULT(STlA3)を酵素源として、PhIPの第一段階の代謝活性化体であるN-ヒドロキシーPhIPを基質としてSTlA3依存的に触媒されるN-ヒドロキシーPhIPによるDNA損傷を測定する^<32>P-ボストラベル法を用いる系を樹立した。これら樹立した測定系を用いて、本研究の二つの主題であるエストロゲン様作用に関連する遺伝子発現の変化と、ヒトP-SULTによる癌原性ヘテロサイクリックアミンの代謝活性化に及ぼすISOの影響を調べる。
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