手術器械および医用器材の洗浄・消毒・滅菌工程において、Washer Disinfector(以下、W/D)の熱水消毒工程と高圧蒸気滅菌器による滅菌工程は、職業性感染および院内感染の防止に重要である。高圧蒸気滅菌法の質保証法は既に確立されている。しかしながら、W/Dによる熱水消毒工程の質保証法は確立されておらず、単槽型W/Dにおいて熱電対を用いて温度計測が行われてきただけである。熱電対は温度表示部とワイヤーで連結されているので、多槽型W/Dにおいて温度計測を行うことは困難であった。 近年、ワイヤレス式温度計測ロガーが開発されたので、W/Dの温度計測を容易に行えるようになった。そこで、今回、ワイヤレス式温度計測ロガーを用いてW/Dの経時的温度計測を行った。 東京大学附属病院に設置された4槽型全自動W/D1台と単槽型W/D3台を対象に、ワイヤレス式温度計測ロガーを用いて温度計測を3回行い、熱水消毒工程における消毒温度と消毒時間の実測値、ならびに、F値を求めた。 消毒時間の実測値は全てのW/Dにおいて設定時間を満足したが、消毒温度の実測値は4台中3台のW/Dにおいて設定温度を満足していなかった。したがって、W/Dの設置時、および、W/Dにおいて温度コントロールシステムへの工事やコントロールパネルの交換などの修理が行われたときには、温度コントロールシステムの調整を行わなければならないことが明らかになった。 消毒温度の実測値が上昇するとともにF値も上昇し、消毒温度の実測値が低下するとともにF値も低下したので、F値はW/Dの熱水消毒効果を評価するために有用な指標であると考えられた。F値は既に、高圧蒸気滅菌法の質保証に用いられている。したがって、洗浄・消毒・滅菌工程において、W/Dの熱水消毒工程と高圧蒸気滅菌器による滅菌工程をF値を用いて一元的に管理できることが示唆された。
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