研究概要 |
わが国における肥満者はこの数年急激に増加し、肥満に伴う合併症の増加が問題となっている。減量指導を実施することにより疾病の発症を予防することが社会的利益につながるとの仮定のもとに、成人一人の減量に要するコストと疾病治療に要するコストを推測し両者の比較から肥満教室開催の有用性の有無を検討した。 著者らが平成4年より愛知医科大学運動療育センターで実施している成人肥満者減量教室の経費を参考に肥満解消に要する経費を算出した。教室施設から新たに建設する場合と、既存の公共施設等を利用する場合とで経費は大きく異なるが、月額一人あたり約8,300円〜62,000円であった。また、当教室参加者に、経過観察の検診を実施したところ半年以上経過しても減量後の体重増加がなく肥満を解消できたと考えられた者は、教室参加者全体の約80%であった。 次に肥満が主な原因である高血圧症、糖尿病、心血管疾患において、PAF(population-attributable fraction)を利用し、肥満者と非肥満者の罹患率の差から肥満解消による医療費減少額を試算した。これらの3疾病を予防するだけでも年間約8,000億円以上の医療費削減が期待された。月額一人あたりの治療費で見ると、軽症の高脂血症で約8,500円、心筋梗塞では約1,500,000円を要し、肥満減量のコストを上回った。肥満者に伴う合併症にはこの他にも胆石症や脳梗塞等多数の疾患がある。また、いずれも経年治療が必要な疾患、肥満解消を目的とした有効な減量教室の開催を推進することは多くの社会的利益を生じると考えられた。
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