研究概要 |
老化ラットにおける内皮依存性血管拡張反応と老化血管でのnitric oxide(NO)およびプロスタサイクリン(PdI2)産生遊離能力の関係を分子生理学的に検討した.Langendorff灌流心臓において,エンドセリンやアンジオテンシンIIによる冠血管収縮作用は,加齢とともに増強され,その結果強い心筋抑制作用が現れる.その原因としては,内皮由来血管拡張性因子,なかでもNO産生放出の低下が大きく関与することが明らかになった.NOは冠灌流液中に遊離されたNO2-/NO3-を蛍光法で測定したものであり,冠血管内皮細胞の機能変化を反映している.もうひとつの重要な血管弛緩因子であるPGI2の産生遊離は,NOとは反対に,老化冠血管で若齢ラットより著明に増加していることが明らかとなった.老化冠動脈におけるNO産生低下およびPGI2産生の増加がどのようにして起こるのか,NO合成酵素,PGI2合成に関わる酵素であるcyclooxygenase(COX),PGI合成酵素,およびPGI受容体の発現変化をもとに考察した.ウエスタンブロットの結果,COX-1蛋白質およびPGI合成酵素蛋白質はともに老化ラットで増加していた.遺伝子発現の相違について,リアルタイム定量PCRを用いて検討した結果,COX-1,PGI合成酵素のmRNAは老化ラットにおいて増加していた.PGI受容体の発現には有意な差異は認められなかった.摘出した大動脈のNO合成酵素には発現量の変化が認められなかった.以上の結果から,老化個体においては,COX-1,PGI合成酵素mRNAの転写亢進によりそれらの発現が増加し,PGI2産生遊離の促進がおこるものと考えられた.NOの遊離量低下は,NO合成酵素の変化によるものとは認められなかったため,NOの分解系が老化によって変化している可能性があると考えられた.
|