研究概要 |
血管平滑筋細胞のATP感受性K^+チャネル(K_<ATP>チャネル)は生理学的な条件でも開口しており、種々の神経液性因子によっても調節され、静止膜電位を制御することによって血管の緊張を調節する重要な役割を果たしいる。しかし、血管平滑筋細胞のK_<ATP>チャネルの分子構造がKir6.2/SUR2BからなるK_<ATP>チャネルか、Kir6.1/SUR2BからなるK_<NDP>チャネルかは未だ確定していない。今回は研究分担者の三木がジーンターゲテイング法によって作成したKir6.2欠損マウス(Miki et al., Pro Natl Acad Sci 94:11969-11973,1997;95:10402-10406,1998)を用いて、K^+チャネル開口薬の作用が摘出胸部大動脈を用いたin vitroの実験において、あるいはパッチクランプ法を適用した単離平滑筋細胞を用いた実験において、差が認められるか否かについて検討すると共に、pinacidilによるin vivoでの血行動態変化についても比較検討した。 実験結果:1)野性型マウス(Kir6.2^<+/+>)と欠損型マウス(Kir6.2^<-/->)の両群から摘出し、norepinephrineで収縮させた胸部大動脈標本をpinacidilおよびdiazoxideは濃度依存的に弛緩した(PinacidilによるEC_<50>はKir6.2^<-/->で1.40μM、Kir6.2^<+/+>で1.92μMであり、diazoxideではそれぞれ3.42μMと4.61μMであった)。2)両群のマウスの大動脈を酵素処理して単離した血管平滑筋細胞よりパッチクランプ法でK^+電流を記録した。Pinacidil 0.1〜10μMを灌流液に加えると両群とも同程度のK^+電流(glibenclamide-感受性電流)が誘発された(PinacidilによるEC_<50>はKir6.2^<-/->で0.16μMであり、Kir6.2^<+/+>で0.21μMであった)。3)Urethane麻酔下の両群のマウスにおいて、pinacidilに対する血圧低下、心拍数上昇反応には差が認められなかった。 結論:これらの結果から、野生型・欠損型のマウス血管平滑筋細胞ではK^+チャネル開口薬の作用発現に著しい違いはなく、血管平滑筋細胞のK_<ATP>チャネルのポアの成分の分子構造はkir6.2以外であることが明らかとなった。即ち血管平滑筋のK_<ATP>チャネルはKir6.1/SUR2BからなるK_<NDP>チャネルである事が示唆された。
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