精神疾患の発症や再燃には一つのきっかけ(ストレス等)により惹起される神経伝達物質の異常が関係すると言われている。うつ病は素因として脳内神経伝達物質の中のセロトニンが減少しているためにシナプス後膜のセロトニン受容体が過感受性になっており、ストレス等が負荷されると急激な遊離と共に受容体が過反応することで惹起されると推測されている。一方、スナネズミは両側総頚動脈を一過性に閉塞すると、閉塞時間に依存した海馬CA1神経細胞脱落に先立ち、持続する運動過多(情動行動変化)が認められる。一過性の脳虚血により神経伝達物質の異常遊離が知られており、これが行動異常を惹起すると考えられている。この運動過多には、DA神経系の関与が明らかとなった。すなわち、虚血による運動過多が最も顕著な虚血24時間後にドパミン受容体遮断薬を投与すると、明らかな運動亢進抑制作用が認められた。次に、伝達物質異常と情動異常(行動変化)との関係について抗うつ薬を投与することで検討した。抗うつ薬は神経シナプスクレフト内の神経伝達物質の取り込みを抑制することにより効果を示す。また、methamphetamine(MAP)は従来抗うつ薬として用いられており、DAの遊離促進および取り込みを抑制する作用を示す。抗うつ薬もMAPも反復投与することにより作用が増強されることが知られていることから、スナネズミの一過性脳虚血に伴う運動過多に及ぼす抗うつ薬ならびにMAP反復投与の影響を検討した。抗うつ薬としてはimipramine(5、10mg/kg)、desipramine(5mg/kg)、paroxetine(5mg/kg)を、MAPは1、3mg/kgを1日1回7日間あるいは14日間投与し、その後に脳虚血を行い、再開通3、24時間後の自発運動量を測定した。脳虚血24時間後の運動過多はMAP投与群では用量依存的に抑制されたが、3種類の抗うつ薬では全く作用がみられなかった。これらの事実からもスナネズミ一過性脳虚血後の持続する運動過多には、DA神経系の関与が強く示唆された。脳血管障害後遺症の1つである徘徊行動にはドパミン神経系遮断薬が最も有効であろうと推察された。
|