本年度は、炎症性腸疾患(IBD)の第一選択薬であるプレドニゾロン(PD)とシクロデキストリン(CyD)とのエステル結合体を合成し、それらの薬物放出挙動および炎症性腸疾患モデルラットにおける抗炎症効果について検討し、以下の知見を得た。 1.エステル結合体は、天然CyDの2級水酸基にスペーサーのコハク酸を介してPDがモル比1:1で共有結合した化合物であることをNMR、Massスペクトルを用いて確認した。エステル結合体の溶解度は、PDやPDコハク酸エステルに比べて著しく高かった。 2.37℃、pH7.4リン酸緩衝液中におけるエステル結合体の消失速度は、α-CyD<P-CyD<γ-CyDの順に増大した。一方、エステル結合体の消失速度に比べてPDならびにPDコハク酸エステルの生成速度は極めて遅かった。また、反応に伴いPDコハク酸エステルがCyDの3位水酸基に転位した異性体およびスペーサーのコハク酸がPDの17位水酸基に転位した異性体が出現し、エステル結合体はそれらの転位体を経て薬物を徐々に放出するものと推定された。 3.ラット血液および消化管組織ホモジネート中では、エステル結合体は安定であり、その薬物放出速度はリン酸緩衝液中の場合とほぼ同程度であった。 4.α-CyDエステル結合体を炎症性腸疾患モデルラットへ注腸投与すると、PD単独やPD/HP-β-CyD複合体投与と同程度の抗炎症効果が得られた。一方、胸腺重量/体重比(T/B ratio)を指標として評価したPDの副作用は、PD単独やHP-β-CyD複合体に比べてα-CyDエステル結合体投与系において著しく低下した。α-CyDエステル結合体を炎症性腸疾患モデルラットへ経口投与した場合も同様な傾向が観察された。 以上の結果より、今回調製したエステル結合体は、副作用が少なく安全性に優れた大腸送達用プロドラッグとして経口投与製剤への有効利用が示唆された。
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