研究概要 |
本研究は、近年増加傾向にあるエイズ患者における適正な薬物治療を支援することを目的とするものであり、患者の血中薬物濃度モニタリングおよび細胞を用いたin vitro検討から血中濃度変動要因を解明することにある。 以下に研究成果の概要を報告する。 1.プロテアーゼ阻害薬のnelfinavirおよびsaquinavirを服用患者の血中薬物濃度測定データの解析を行った。その結果、個人間の濃度変動が大きく併用薬や肝機能の影響が示唆された。また、1症例についてはphenytoinとの相互作用によると考えられる血中nelfinavir濃度低下が認められたが、早期に発見し処方変更することによりnelfinavir濃度を回復することができ適正使用に貢献した。この血中濃度低下の原因を究明した結果、nelfinaviの代謝物M8濃度はあまり変動しなかったことから、今回の相互作用は肝臓での代謝酵素誘導作用に加え消化管における吸収過程での相互作用の可能性が示唆された。 2.LLC-PK1細胞にヒトおよびマウスP-糖蛋白質を発現させたL-MDR1細胞およびL-mdr1a細胞を用いてnelfinavir,saquinavirおよびritonavirの膜輸送に対するP-糖蛋白質(P-gp)の関与を検討した。その結果、saquinavir,ritonavirおよびnelfinavirはいずれもP-gpの基質であることが確認できた。P-gpの阻害効果について、5種のプロテアーゼ阻害薬および5種のヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬で検討した結果、nelfinavirおよびritonavirはP-gpを阻害したが、他の薬物は阻害しなかった。また、P-gpと同様な排出トランスポーターの一種であるMRPに対する阻害効果も検討したところ、ritonavirおよびsaquinavirに弱い阻害効果が認められた。
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