血液脳関門(BBB)は脳の神経機能を維持するために、老廃物を脳から排除する輸送システムを備えている。近年、いくつかの薬物もこの輸送システムに認識されて脳から排除されるために、脳への移行性が制限されていることがわかってきた。代表的な例は、P-糖タンパクや有機アニオンに対する排出輸送系である。本研究課題の目標は、BBBに発現する高分子輸送能を利用して、上記のような排出輸送系の機能を制御する遺伝子あるいは抗体を脳内にデリバリーすることにある。本年度、申請者はクリアランスレセプター様の作用をもつと推定されているヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に着目した。そして、このHSPGがBBBにおいて高分子タンパクを内在化する機能を持つかについて基礎的検討を行った。 高分子タンパクのモデルとしてHSPGに結合性の高い塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を選択した。まず、ラクトペルオキシダーゼ法の変法により、安定な^<125>I-bFGFを精製することができた。次にこの^<125>-bFGFのBBBへの結合性を単離牛脳毛細血管(B-CAP)を用いて検討した。B-CAPに対する^<125>I-bFGFの結合は濃度依存的であり、非ラベル体bFGFにより阻害された。また、HSPG類似物質であるヘパリン、コンドロイチン硫酸等で結合は有意に阻害された。さらに、in situ脳灌流法により^<125>I-bFGFが血管側から脳内へとトランスサイトーシスされるかを検討したところ、^<125>I-bFGFの一部は未変化体のままBBBを透過し、脳内に移行していることが示唆された。また、この取り込みはヘパリンンの共存下で有意に阻害された。従って、BBBのHSPGは高分子タンパクを内皮細胞内に内在化し、さらに脳内へトランスサイトーシスさせる能力を持つ可能性が示唆された。
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