血液脳関門(BBB)は脳の神経機能を維持するために、脳から老廃物を排除する機能を備えている。近年、ある種の薬物もこの輸送系に認識され脳から排除されることがわかってきた。本研究課題の目標はBBBに発現する高分子輸送能を利用して遺伝子あるいは抗体を脳毛細血管内皮細胞内に送り込み、薬物排出輸送系の機能を制御するという斬新なデリバリーシステムを考案することにある。昨年度、申請者はBBBにヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)が関与する高分子輸送能があることを示唆した。本年度はこの高分子輸送能を培養細胞系を用いてさらに詳細に検討するとともに、その実体を遺伝子レベルで明らかにすることを目的とした。培養細胞として温度感受性SV40T抗原遺伝子を導入したトランスジェニックマウスから樹立した条件的不死化マウス脳毛細血管内皮細胞株(TM-BBB)を用いた。まず、RT-PCR法を用いてHSPGのコアータンパクをコードする遺伝子を検索した。その結果、TM-BBBにパールカンをコードする遺伝子の発現が認められた。また、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)をモデル高分子として細胞内への取り込みメカニズムを調べた結果、bFGFはHSPGを介したadsorptive mediated endocytosis機構で細胞内に内在化することがわかった。興味深いことに、TM-BBBにはbFGFの薬効発現に関連するFGF receptor(FGFR-1とFGFR-2)の発現が認められ、さらに細胞をそれぞれの特異的抗体で処理するとbFGFの取り込みは有意に減少することがわかった。これはHSPG介在型adsorptive mediated endocytosis機構にFGFRの存在が必要であることを示唆したものであり、デリバリーの特異性を持たせるといった観点からも非常に興味深い。従がって本研究費をもとに得られた結果は、BBBの薬物排出輸送系の機能を制御した、新しい脳指向性ドラッグデリバリーシステムを創製する基礎研究として重要な位置を占めるものと思われる。
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