慢性的かつ重篤な痛みを有するがん患者にとって、その痛み緩解のためのモルヒネ使用は必須である。最近、興味ある臨床報告として慢性疼痛下、モルヒネの鎮痛効果に対する耐性が形成されにくいことが知られるようになったことから、平成11年度には、フォルマリン処置した慢性疼痛モデル動物を作成することでモルヒネ耐性の形成抑制を実験的に証明し、その発現機序の一つとしてκオピオイド受容体の関与を明らかにした。近年、モルヒネの耐性形成機序としてオピオイド受容体細胞内受容体伝達機構の変容、特にPKAやPKCなどのリン酸化タンパク質による脱感作機構の関与が注目されている。そこで、平成12年度は慢性疼痛下でのモルヒネ耐性形成抑制機構におけるPKA、PKCの関与を明らかにすると共に、それらに対するκオピオイド受容体の果たす役割についても検討を加えた。モルヒネの作用するμオピオイド受容体が豊富に存在する脳内中脳部位における[^<35>S]GTPγS結合を指標にしたGタンパク質活性は、モルヒネ耐性形成時には抑制、慢性疼痛下の耐性形成抑制時には有意な上昇が観察された。また、PKAに対するアンチセンスあるいはPKCの抑制剤であるカルホスチンCの処置によってモルヒネの耐性形成の抑制が認められた。さらに、慢性疼痛下、モルヒネ耐性形成抑制がみられた動物の中脳部位におけるPKC活性は有意に減弱した。上記に挙げた慢性疼痛下におけるモルヒネ反復投与後の細胞内情報伝達機構の変容は、κ受容体に対するアンチセンス処置によって全てが消失し、正常動物におけるモルヒネ耐性形成時の値と同程度になった。以上の成績を総括すると、慢性疼痛下におけるモルヒネ耐性形成抑制は、痛み刺激によってκオピオイド受容体が活性化された結果、モルヒネ反復処置によるPKA、PKC活性の上昇が阻止されることによって耐性形成の遅延および抑制現象が誘導される可能性が示唆された。
|