筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の運動神経変性疾患は神経細胞の変性死によっておきる難病である。我々はこの治療法の開発の可能性を神経栄養因子(neurotrophic factor : NTF)に求め、毛様体神経栄養因子(ciliary neurotrophic factor : CNTF)を用いて、Cashmanらによって樹立されたマウスの神経芽細胞腫と脊髄の運動神経のハイブリドーマNSC-34に対する生存延長作用について検討した。NSC-34細胞は無血清下で培養すると3日後には死滅する。この系にCNTFを作用させると、NSC-34細胞は有意にその生存が延長された。次にこの作用に対して、神経組織に豊富に存在するガングリオシドの効果について検討した。低濃度のCNTF存在下に種々のガングリオシドを加えたところ、生存延長作用はGM2によって増強され、他のガングリオシドによっては増強されなかった。一方、CNTFによるGM2合成酵素の変動を調べたところ、NSC-34細胞ではGM2合成酵素が増加した。これらの結果はCNTFによって誘導されるGM2がCNTFレセプターの発現または結合能を増強することを示唆した。CNTFの存在下であっても抗CNTF受容体抗体を加えるとNSC-34細胞は細胞死を起こし、GM2合成酵素の発現は抑制された。放射性ラベルしたCNTFを用いてスキャッチャード解析を行ったところ、GM2はCNTFの結合親和性を5倍高め、結合部位の数は変化させなかった。また放射性ラベルしたN-アセチルガラクトサミンをNSC-34細胞に取り込ませた後細胞ライゼートを抗CNTF抗体を用いて免疫沈降した結果、生合成されたGM2がCNTF受容体の免疫沈降物を増やすことが明らかとなった。これらの発見はGM2合成酵素の発現を高めることによってCNTF受容体の機能的な活性化が起こりCNTFとの結合性が高まることを示している。
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