本研究によって以下の知見を得た。 1.神経因性疼痛モデルを用いて疼痛発症時における栄養因子のタンパク発現量を各組織において測定した。成熟ラットの片側坐骨神経を緩く結紮することによって慢性絞扼性障害を惹起した。行動学的に疼痛が惹起されていることを経時的に確認し、結紮2週後に、ラットから組織を摘出、抽出後、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)および神経成長因子(NGF)などの栄養因子を定量した。栄養因子の微量タンパク分子測定のために、two-site enzyme immunoassay法を導入した。坐骨神経結紮部位において健側同部位に比べNGFの著明な低下が見られ、正常なNGF輸送が障害されていることが明らかとなった。皮膚で産生されたNGFの輸送経路が障害されているにもかかわらず後根神経節では発現が増加していたことから、一部異所性にNGFが産生されている可能性が考えられた。一方、GDNFの発現量は後根神経節では変化がなかった。以上の結果から、神経因性疼痛発症時に一次求心性線維の生存を維持するふたつの栄養因子の発現パターンが異なっていることがわかり、このことが病態に関与している可能性が示唆された。 2.痛覚伝達に関与すると考えられているタキキニン受容体の変化を神経因性疼痛モデルにおいて検討するために、競合RT-PCR法を開発した。この方法によって脊髄のタキキニン受容体を定量したところ、障害側でタキキニン受容体NK-1mRNAの発現が変化している可能性が示唆された。 3.成人ヒト骨格筋において、GDNF受容体分子の一つであるGFRα-1の発現が神経筋接合部および筋内有髄神経軸索にみられることがわかった。骨格筋においてGDNFが産生され、筋から分泌されたGDNFは神経筋接合部においてGFRα-1と結合することによって神経終末から取り込まれ、軸索内を輸送されると考えられた。
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