抗体は多岐にわたる標的抗原に対して高い特異性と親和力を示すため臨床化学分析における機能性器材として利用価値が高い。しかし、動物を免疫して得られる天然の抗体は高分子量のタンパクであるため、物理・化学的な安定性に乏しい。また、免疫応答は遺伝的統御を受けるため、目的の抗原に対して十分な特異性・親和力を保有する抗体が得られない場合も少なくない。そこで、免疫工学的技術により天然型抗体の構造と機能を改変して、超高感度・高選択的な臨床化学分析システムの確立に有用な低分子量の新規な抗体模倣ペプチド(ミニ抗体)の創製を企画している。その一環として、副腎皮質ステロイドである11-デオキシコルチゾール(11-DC)及び光学活性なβ遮断薬であるブフラロール(BUF;1R-異性体)をモデル抗原に取り上げ、抗体H鎖及びL鎖の可変部(V_H、V_L)をリンカーペプチドで連結した一本鎖Fvフラグメント(scFv)の調製を検討した。我々は既にこれら抗原に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を樹立している。そこで、これら細胞からRNAを抽出してRT-PCR法によりV_H、及びV_L遺伝子をクローニングした。さらに、これらをリンカー配列[(G1y_4Ser)_3]を介して5'-V_H-リンカー-V_L-3'の順序で連結して、scFv遺伝子を構築した。これを抗体フラグメント発現用ベクター、pEXmide5に挿入したのち、大腸菌XL1-B1ue株に導入した。得られた形質転換体をIPTGとスクロースの存在で培養して、対応する抗原に強く結合するscFvをペリプラズム抽出物として得ることに成功した。11-DCに対するscFvの親和力と特異性をRIAにより詳細に検討し、モノクローナル抗体の性質を十分に保持していることを確認した。BUFに対するscFvの結合特性については現在検討中である。
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