汎血管内血液凝固症(DIC)は、血栓症や出血や多臓器不全を引き起こし死に至らしむ症候群であり、迅速な病態診断と的確な治療が要求される。診断やモニタリングのための分子マーカーは種々普及しているが、主たる病変部位である血管内皮細胞障害マーカーの指標はいまだ一定の見解がない。我々は、血管内皮細胞が生成発現するフォン・ウイルブランド因子(vWF)に着目し血管内皮細胞障害の分子マーカーとしての有用性を検討してきた。vWFは前駆体であるpro-vWFとして内皮細胞で生成され特徴的なマルチマーとなり、その後成熟したmature-vWF(m-vWF)とpropolypeptideとしてのvWAgIIに分解される。われわれは、pro-vWF・vWAgIIおよびm-vWFに対するモノクローナル抗体を作成し、血漿中や培養細胞および上清中の三者の蛋白濃度を測定するELISA系を確立した。基礎的な実験モデルとして、培養ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞の検討では、炎症性サイトカインであるLPSやTNFなどの刺激で、pro-vWFの培養上清中の放出が増加した。とくに、LPSと白血球などの単核球の両者で刺激すると相乗効果が観察された。一方、TNFと単核球との組み合わせ刺激ではかかる相乗効果は認められず、敗血症を始めとするLPSが増加するDICの病態では、血管障害マーカーとしてpro-vWF測定の有用性が示唆された。臨床検討として、DICおよび慢性的な血管障害を合併する代表的疾患である糖尿病患者の血漿中のpro-vWFを比較検討したところ、健常成人と比較し、DICでは有意に高く、糖尿病では一部高い症例も認められたが僅かであった。血漿pro-vWFは他の血管内皮細胞障害マーカーと云われるトロンボモジュリンやt-PA/PAI複合体の血漿中濃度とは相関せず、特異な病態を表すマーカーであることが示唆された。
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