心房細動は脳塞栓症の重要な病因である。本研究は、発作性心房細動を電気的除細動した後の左房機能回復の時間的経過を明らかにし、さらに慢性心房細動症例において血栓塞栓症の発症を規定する危険因子を検討した。 除細動前に経食道心エコーを行った発作性心房細動45例を対象とし、除細動後の左房機能を経食道心エコーで経時的に観察した。左房の収縮機能を示す左心耳血流速度およびA波は、除細動1か月後にはほぼ回復し、1ヵ月目と3ヵ月目に差を認めなかった。解剖学的指標である左心耳断面積は、除細動後徐々に縮小したが、3か月以上縮小が継続した。心房細動罹病期間が5か月以上の症例では罹病期間が短期間の症例に比べて、左心耳血流速度とA波高、左心耳断面積の回復が遅延し、3ヵ月以上を要した。 慢性心房細動症例における血栓塞栓症発症の危険因子を明らかにするため、経食道心エコー検査を施行した弁膜症を有さない慢性心房細動症例75例を対象とし、3年間経過観察した。観察期間前に39例が脳梗塞の既往を有し、観察期間中に14例で症候性塞栓症が発症した。単純および多変量logistic回帰分析で、抗凝固療法や抗血小板薬の投与、高血圧や糖尿病の合併、左房拡大や左室収縮機能障害は心房細動症例における塞栓症発症の有意な危険因子ではなかった。左房内血栓、胸部大動脈の動脈硬化、左心耳血流速度低下が塞栓症発症の有意な危険因子であり、特に左心耳血流速度低下が塞栓症発症の独立した危険因子であった。 本研究から発作性心房細動では発症早期に除細動を行うことにより、左房機能障害からの回復が早く、脳梗塞などの塞栓症発症を抑制できる可能性が示され、心房細動による左房機能の低下が塞栓症発症の重要な危険因子であることが明らかになった。
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