研究概要 |
療養空間における生活臭は,そこで生活する療養者にとって不快さを増強する因子の1つとなりうる。しかしながら,「におい」を科学的に定量し評価することは大変難しく,特に,主観的な感覚としての「におい」を生理学的な変化と対応して客観的にとらえる試みは,遅々として進んでいない。そこで我々は,療養空間における生活臭に対するいくつかの物質の消臭効果を生理学的手法と心理学的手法の両方で確かめるために,以下のような2つの実験を行った。 はじめに,においに関する基礎的な実験を行い,生理・心理学的計測のための方法論を確立した。この実験により,脳波をはじめとする生理計測とセマンティック・ディファレンシャル(SD)法を中心とした心理計測を同時に行い,においの評価をすることができた。その結果,脳波に与える影響では,ラベンダーが若干脳波上の鎮静化をおこす可能性が確かめられた。 次に,療養空間における代表的な生活臭の1つであるアンモニアを,身近な物質を用いて消臭する実験を行った。消臭物質としては,コーヒーかす,お茶がら,ペパーミントオイル,活性炭の4種類を用いた。被験者は,健康な20代の女性14名である。消臭効果は,「6段階の臭気強度表示法」,「7段階の快不快度表示法」,および匂いの質に関する「25対のSD評価」を用いて評価をした。これと同時に臭気をニオイセンサで測定した。 その結果,1.コーヒーかす,お茶がらをアンモニアに混合すると,主観的な臭いの強さが弱くなった。2.コーヒーかすをアンモニアに混合した臭いはやや快であったが,お茶がらをアンモニアに混合した臭いは快とも不快ともいえない臭いであった。以上のことから,コーヒーかすがアンモニアの消臭に有効な物質であることが示唆された。またSD評価の分析から,消臭に伴って臭いの質的特徴も変化していることが示された。
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