研究概要 |
■研究目的 本年度は,急な姿勢変化に伴って起こる血圧低下・脳血流の低下を事前に調節する反応(予期調節preparatory control)を人間工学的視点から実験的に検証することを目的とした。 ■実験方法 被験者は健康な若者13名であった。実験は、2種類の高さの異なる椅子を設定して(座面高20cm,40cm)、座っている状態から立位へと移行する動作について実施した。起立の条件は、「予告あり」起立と、突然起立してもらう「予告なし」起立の2条件で行った。実験手順は、先ず被験者に対して安楽に座るように指示し、生体計測反応が安定した時点から、5分間安静座位を保った後に起立してもらい、その後3分間立位を保持してもらった。起立に要した時間は、何れもほぼ1秒前後であった。実験中は、心電図および近赤外線脳酸素モニターによる脳循環の連続的な測定・記録を行なうと同時に、起立前後の血圧を自動連続血圧計を用いて測定した。心拍データと血圧データは、全自動循環動態・自律神経活性解析システム(大日本製薬,フラクレット TM)によって、心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、平均血圧(MBP)、拡張期血圧(DBP)、心電図RR間隔(msec)を求め、ウェーブレット変換による周波数解析(時間分解能0.1sec)によって、心拍・血圧ゆらぎ解析を行った。 ■結 果 起立直後の心拍数の最大増加率を椅子の高さ、予告の有無で比較すると、予告の有無では、「予告なし」の方がやや増加する傾向がみられた。起立直後の平均血圧の最大減少率は、予告の有無別には有意差はみられなかった。20cmからの起立では、「予告なし」が「予告あり」に比べて有意(p<0.05)に減少した。起立直後のOxy-Hb濃度の最大変化量の比較は予告の有無別では有意差はなかった。椅子の高さの違いでは、「予告なし」で有意差(p<0.05)がみられた。座面高20cmからの起立前・後30秒間におけるSBP-LF値の変化を、予告の有無別に見ると「予告なし」では起立後に有意(p<0.01)な増加がみられたが、「予告あり」では有意差はみられなかった。
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