研究目的本研究は、日本人乳がん体験者のプラスとマイナス両側面を含めたソーシャル・サポート、精神的状況、身体的状況を縦断的に捉え、その実態と関連、また、経時的な変容を知ることを目的とした。さらに、医療者が行う日本人乳がん体験者へのケア提供を検討することを目的とした。 研究方法 某大学附属病院において「乳がん」の診断を受け治療とケアを受ける予定の者に研究目的や方法、倫理的配慮に関する説明を行い同意を得た者(N=60)に手術前、手術後2週、手術後1ヶ月、手術後6ヶ月、手術後1年の5回にわたり、日本語版精神健康調査票とインターパーソナル・リレーションシップ・インベントリーを使用しデータを収集した。記述統計、ピアソン積率相関係数、反復測定分散分析によりデータ分析を行った。 結果と考察 1.乳がん体験者のソーシャル・サポート・ネットワークは、手術前から手術後1年まで主に家族や友人であった。 2.乳がん体験者のソーシャル・サポートは、手術前から手術後1年まで各期における有意な経時的変容はみられなかった。 3.乳がん体験者の精神的状況は手術後1ヶ月に下降し、手術後1年では最も良くなるという傾向を示した。しかし、この経時的な変容の傾向は、その統計的な有意差を示さなかった。 4.乳がん体験者の自覚・他覚症状による身体的状況は、手術前と比べ、それぞれ手術後2週、1ヶ月、6ヶ月との間において有意差を示した。時間の経過とともに身体症状の量的減少を示した。 5.乳がん体験者の家族員数が、手術前にサポートと有意相関を示した。婚姻状況と精神的状況や身体的状況との関連の有無は、データ収集時期により有意な相関が「ある」や「ない」という結果を示した。 6.ソーシャル・サポートのプラス側面としてのサポートと身体的状況とが、手術前においてのみ有意相関を示した。また、サポートと婚姻状況が手術後1年においてのみ有意相関を示した。ソーシャル・サポートのマイナス側面としてのコンフリクトは、身体的状況と有意相関を示さず、その傾向のみを示した。この相関分析は、因果関係を示す統計分析ではない。因果関係をみるソーシャル・サポート変数と健康への影響を検討できる統計分析可能な対象者数を得て、追究する必要がある。 7.看護者は、乳がん体験者への看護実践にこれらの結果を活用し、乳がん体験者とその支援源であるソーシャル・サポート、ネットワーク構成員をケア提供の対象としたアプローチにより、精神的・身体的状況を向上すべくケア提供が必要である。
|