本研究は、口腔・中咽頭癌術後嚥下障害患者に対する呼吸軌跡のバイオフィードバックを用いた嚥下訓練プログラムを評価するために、嚥下時の呼吸型を検討した。11人の健康な女性(年齢19.45±0.7歳;若齢群)と11人の健康な男性(年齢71.5±3.7歳;高齢群)を被験者として、10または5mlの水を嚥下する時の舌骨上筋群表面筋電図と呼吸軌跡を同時に測定した。まず、若齢群における呼吸型の発現率が1ヶ月間隔をおいた再テスト法で確認された。続いて、若齢群と高齢群において、被験者がコンピュータディスプレイ上の呼吸軌跡をバイオフィードバックされながら、呼吸周期図上に教示された4点(A:呼気終末、B:吸気の途中、C:吸気終末、D:呼気の途中)で嚥下するように努力した時の呼吸型の発現率が確認された。 結果として、再テスト法における相関係数は、1回の喉頭運動による呼吸型(単独嚥下)では0.83、呼気-嚥下性無呼吸-呼気の呼吸型(eae型)では0.76であった。A、B、CおよびD点に適合する呼吸型の発現率は、若齢群では各々52.7%、70.9%、50.9%および47.3%、高齢群では43.6%、20.0%、45.5%および40.0%であった。A、B、CおよびD点で嚥下した時の最も安全な呼吸型の発現率が、若齢者では各々18.2%、45.4%、92.8%および69.1%であり、高齢者では30.9%、67.3%、83.6%および54.5%であった。 以上から、呼吸周期図上のC点で嚥下する教示と呼吸軌跡のバイオフィードバックによって安全な呼吸型が得られることが示唆された。この結果に基づき、病院倫理委員会の承認のもとに、口腔・中咽頭癌術後嚥下障害患者8人に訓練を適用した。6人が複数回の喉頭運動による呼吸型(分割嚥下)から単独嚥下に変化し、2人は喉頭運動の回数が減少した。
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