本研究の目的は、Younger J.B.(1991)が構築したTheory of Masteryを前提として、がん体験者の適応状態を多角的視点をもって把握する方法を開発し、本人の力を引き出しその力を活用する肯定的な長期的適応への具体的な看護援助方法を考案することである。H11年度から13年度にかけて研究結果は以下の通りである。 1.外来通するがん体験者29名のインタビューにて、長期的な適応状態を把握するためにMastery of Stress Instrument (MSI)は、翻訳後、わが国において使用可能な尺度であると考えられた。 2.バックトランスレーションを含む翻訳過程を繰り返し、日本語がん体験者のMSIを作成し、がん看護のエキスパート20名によりる内容妥当性、がん体験者による表面妥当性の検討後、「確かさ」「変更」「受け入れ」「拡がり」の4つの要素で構成されるがん体験者の折り合いをつける力とストレス尺度を開発した。 3.外来通院患者65名を対象に、パイロットスタディを実施し、内的整合性であるCronbach's α係数と項目-尺度間相関、仮説検定法を用いて信頼性と妥当性の検討を行い望ましい結果を得た。 4.本研究で開発した尺度を含む質問紙を用いて外来通院するがん体験者の150名の実態調査を行い以下の結果を得た。 (1)がん体験者のストレスは退院後の期間に関わらず持続している。 (2)ストレスと折り合いをつける力の「受け入れ」は有意な負の相関がみられ、ストレス状態が高いと自己の期待や目標を現実的に統合して受け入れることが困難であることが示唆された。 (3)折り合いをつける力の「拡がり」と退院後の期間は有意差があり、3年以上群は、3年未満群と比較すると有意に平均値が高いこと、折り合いを付ける要素の特徴から、退院後がん体験者は自己や環境との関係を再調整して折り合いをつけていくことや現状を肯定的に評価し、自己の力を発揮して成長していくことが示唆された。 (4)外来通院者は、「医療者に対する思い」「告知後から治療開始までの心の揺れ」「治療後の身体に対する思い」「将来に対する思い」をもちながらも「病気体験の意味づけ」を行い、「健康に対する取り組み」「病気体験後の生活への取り組み」を「サポート存在の実感」を得て生活していることが示唆された。
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