今年度の研究は、主として俵國一をめぐって調査した。俵國一自身の研究資料は安来市の和鋼博物館に所蔵されているが、その資料の一部を閲覧させて頂いた。実験ノートなどの貴重な資料は封筒の中に未整理のまま入っており、重ねられている順番が変わってしまうのを避けるために、現在原則的には未公開であるのが現状である。これら俵國一の研究資料に加えて、岩崎航介という刃物職人が極めて興味深い一生を送っていることを知った。刀剣書を読解し、現存の刀匠から秘伝を学び、冶金学の知識を得て、優れた刃物の製造を目指したのである。今後、俵國一とともにこの岩崎航介という人物にも焦点を当て、職人的技能と科学的知見との接点を探っていく予定である。 また、今年度においては、技能ということに関するさまざまな分野における研究のサーベイを行った。とりわけ文化人類学においては、エスノグラフィーやエスノメソドロジーといった手法とともに、職人などが実際に活動する現場に入り込み作業観察をしたり、実際に自分で活動をしたりすることで、その行動の記述や概念化をしていることが分かった。今後はこれらの文化人類学的な研究も参考にしつつ、過去と現代における職人と科学者との出会いを分析していこうと考えている。
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