研究概要 |
前年度に引き続き,『原論』のテクストの文法構造を解析する文法規則を記述し,この規則によって実際に自動的にテクストの文法構造が一意かつ正確に確定するかどうかを確認する,という作業を進めた.今年度は新たな術語と構文が多数出現する第5巻および第6巻の比例論関係の部分についての解析を行なった.そこで規則の数が当初の予想を越えて非常に多くなるという問題が次第に明らかになり,何らかの対処が必要となってきた.原因の一つは本質的に同一の規則を名詞の性や数に応じて何度も記述せねばならないことであsり,もう一つの原因は,たとえ定型的な数学文書であっても,ギリシア語では語順が比較的自由であることにあった.この問題を解決すべく自然言語理解の既存の諸理論を検討し,専門家の助言も求め,検討を重ねたた結果,HPSG(Head-DrivenPhrase Structure Grammar)がこれらの問題の大部分を解決することが分かった.また実際にこの文法によって解析を行なうパーザプログラムの開発者から実装されたプログラムの提供と今後の研究への援助を受けることができることになった.そのため,今年度の後半に研究手法を大きく転換し,これまで記述した文法規則もすべてHPSG文法で書きかえることを決定した.このため,『原論』第9巻までの解析を予定していた今年度の作業は第6巻で中断し,作業に遅れをきたしたが,HPSG文法による効率的な文法規則の記述と,強力な文法解析能力により,来年度にはこの遅れを取り戻すことができると思われる.
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