研究概要 |
本研究では,まず授時暦議「験気」後半になされている冬至,夏至決定の計算の分類をした.この部分は技術的には単なる比例計算で新機軸はないが,きわめて多数の計算が繰り返されている.これらの計算は一見無造作に見えるが,そこにはほぼ一定の基準があることがわかった.元来,原文の一部は表現が曖昧で,その部分を単独に読んでいたのでは,どのように計算したのか正確に判断できない.そこで解釈が確実な原文を抽出し,数式処理システムによる再現計算によって,12種類の計算の型を設定し,それに基づいて表現が曖昧な原文の解釈を定めた. 一方,受容に関しては,「祖冲之(429-500)の方法」の日本における理解という観点から研究した.勾配法,回帰年の数値,上元積年を計算する方法などが祖冲之法と呼ばれるが,関孝和(?-1708)以来,『授時暦議注解』(1838年写)に至るまで,その用いられ方はいずれも勾配法あるいは数値そのものをさしている.一方,授時暦では上元積年は用いられないから,少なくとも日本においては,圭表の観測から節気など時間を特定する方法と理解されていたことがわかる.なお,『注解』の著者としては,高橋至時(1764-1804)や渋川景佑(1789-1856)と関連のある人物の可能性もあるが,数学者の注釈という可能性が高いことから,建部賢弘と関連のある人物の可能性もある.
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