運動時に生じる乳酸は強酸であるので、緩衝する必要がある。従来から知られている生体内の緩衝系は重炭酸系と非重炭酸系である。平成11年度には、重炭酸ナトリュウムを経口投与(アルカローシス)し、生体内の内部環境の重炭酸系の緩衝能を変えた場合の乳酸緩衝への影響について検討した。投与の影響は血中の重炭酸イオンの有意な増加によって確認された。また、乳酸増に対する水素イオン濃度(pH)はアルカローシス時ではプラセボ時に対して安静時および運動後の回復期に有意に高い値であった。またその時間変移は平衡関係にあった。このpHが乳酸増に対して変動するのは、内部環境のpHを一定に保つための恒常性維持機構であると考えられる。その機構の一つとして、肺換気がpHの低下に伴い刺激され、その結果、CO2が過剰に排出されると考えられる。また、アルカローシス時のpHの高値は、肺換気を抑制すると考えられるが、この予測とは異なり、プラセボ時と同じ肺換気量であった。これは、本実験の様に重炭酸ナトリュウムを経口投与するとその摂取過程でpH-肺換気調節のセットポイントが変わるために生じていると考えられた。 平成12年度は外部環境の温度を30度以上と20度以下の場合の比較を行った。その結果、心拍数は高温条件下の回復時で有意に高い値であった。しかし、肺換気は温度条件による差異は認められなかった。そのためにCO2過剰排出量も両条件下で差異は認められなかった。心拍数のこの上昇は体温調節に伴う皮膚血流量の上昇に応じて心拍出量が増加しために生じたものと考えられる。これは、循環系が内部環境の体温の維持に対して働いているために生じたと考えられる。しかし、呼吸は内部環境のpHの恒常性維持と関連しているので、変化しなかったものと考えられる。したがって、この程度の温度差では、恒常性維持機構のpHと体温維持とは独立になされていると考えられた。 結局、運動によって生じる乳酸はCO2過剰排出をもたらすが、重炭酸ナトリュウム投与や高温度条件には影響されなかった。
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