安静立位姿勢における足圧中心位置の異る被験者を対象にして、所定の足圧中心位置で前・後傾姿勢を保持させ、上肢屈曲運動時の姿勢筋の活動開始のタイミングの変化について検討した。被験者は安静立位姿勢における足圧中心位置(踵から足長に対する百分率で表示)によって、10名ずつ、後傾群(<38%FL)、中間群(38%-48%FL)、前傾群(48%FL<)に区分した。床反力計上で所定の足圧中心位置で立位姿勢を保持し、任意のタイミングで上肢屈曲運動(90°)を、できるだけ速い速度で実施した。足圧中心位置は、踵から足長の20-80%の範囲を10%刻みに定めた。その位置は、コンピュータの発するブザー音にて被験者に伝えた。表面筋電図(三角筋、腹直筋、脊柱起立筋、大腿直筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、ヒラメ筋)を記録し、コンピュータ解析によって三角筋に対する姿勢筋の第一層のバースト活動の開始時間差を求めた。後方の立位位置では、大腿二頭筋と脊柱起立筋の三角筋に対する先行活動は認めがたく、より前方の立位位置ではその先行活動の開始が顕著に早くなった。その早期化が始まる立位位置には、大腿二頭筋に限って被験者群間に有意差がみとめられ、前傾群ほど前方にあった。また、安静立位姿勢に近い立位位置では、大腿二頭筋の活動開始時間に有意差が認められなかった。これらの結果は、安静立位位置との関係で、上肢運動に伴う平衡の乱れが予測され、それに基づいて姿勢筋の活動開始が調整されていることを示していると考えられた。姿勢筋のなかの脊柱起立筋に関しては、このような特徴は認められず、大腿二頭筋とは異なるメカニズムによって調整されているものと考えられた。
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