上肢や下肢を随意的に運動する場合に、自動的な姿勢制御が影のように伴うことが古くから指摘されている。その制御の仕方が、随意運動の技能やフォームを強く規定していると考えられる。身体の前方水平への上肢屈曲運動時の姿勢制御が、平衡維持という合目的なものであり、予測的になされることがBelen'kii(1967)を初めとして数多く報告されてきた。予測制御の証拠として、上肢運動の主動筋よりも姿勢制御に関わる筋(姿勢筋)の方が早期に活動を開始することが挙げられている。ところが、被験者によっては、上肢運動の主動筋よりも姿勢筋の方がむしろ遅れて活動を開始することも十分推察された。それが、平衡維持のための姿勢変換の個人差に強く関係しているのではないかと考えるに至った。その個人差を生じる要因として、上肢運動開始前の準備姿勢の違いが考えられた。研究の結果次のような知見を得た。1)上肢運動時の足関節と股関節の運動角の間には、高い負の相関(r=-0.870)が認められた。股関節の運動角には方向の違いを含め大きな個人差が存在した。その運動角が前屈方向の者は、姿勢筋に明確な先行活動が認められなかった。2)初期立位位置が後方では姿勢筋に明確な先行活動が認められないが、立位位置が前方に移るにつれて、大腿二頭筋の活動開始が早期化した。安静立位位置が前方の者ほど、早期化が始まる足圧中心位置がより前方にあった。3)初期股関節角度が屈曲位(5゜と10゜)では、股関節の運動方向に関わりなく、姿勢筋に顕著な先行活動が認められた。初期股関節角度が0゜と伸展位(5゜と10゜)では、股関節が屈曲方向に運動する場合には、明確な先行活動が認められなかった。4)テニス・ストローク時の股関節の運動角と、安静立位姿勢での上肢運動時の股関節の運動角との間には、r=0.785の高い相関が認められた。
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