人が起立すると、重力のために血液が身体の下方に移動して脳や心臓の血流が減少する。著者らは、この負荷に対する補償作用のひとつとして、姿勢動揺の1分変動と体液量変動1分波が呼応して働く補償作用を見出した。これまで、この補償作用のメカニズムを一部解明し、筋ポンプを利用した起立性低血圧防止法を開発したが、この作用のメカニズムには不明な点が多い。本研究の目的は、まだ解明されていない組織血流に関するパラメータの1分変動を測定分析し、体液量変動1分波の作動機序解明に役立てることである。被験者は健康な大学生男子12名とし、背臥位と直立位において体液量変動1分波に関する測定をそれぞれ約40分間行った。測定項目は、左下腿ふくらはぎの組織酸素飽和度とへモグロビン量(近赤外分光法)、身体各部位の体液量変動(ラバーストレインゲージプレチスモグラフィー、インピーダンスプレチスモグラフィー)、血圧変動(フィナプレス)心拍出量等(インピーダンスプレチスモグラフィー)、心拍数、呼吸運動、下肢と腹背部筋放電等(ポリグラフィー)、足圧中心動揺(スタトキネシメトリー)とした。測定中に起立性低血圧を起こし実験を中止した場合、または測定器のトラブルでデータが得られなかった場合には、可能な限り、日を変えて再実験を行った。とりあえず3名のデータについてオートパワースペクトル分析を行った。その結果、これまでに1分変動が含まれていることが明らかにされているパラメータに加えて、左下腿ふくらはぎの組織酸素飽和度とへモグロビン量に、これまでと同様の周波数(0.012〜0.014Hz)を持つ1分変動を検出した。この結果は、体液量変動1分波の作動機序解明に非常に役立つことと思われる。今後さらに分析を進める予定である。
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