研究概要 |
実験動物(Fischer344系)ラット骨格筋に損傷を与え,その回復過程における組織学的・生理生化学的検討を行った。被験筋とした足底筋に対し伸張性収縮を60回行い,筋に十分量の損傷を与えた。3日後には明らかに損傷線維が多く見られ,マクロファージの浸潤面積が拡大した。この損傷筋を摘出し部分的に過収縮が見られる線維を実体顕微鏡下で取り出し,顕微鏡撮影を行った。次に,線維長軸に沿った損傷部を避け,正常部分の張力特性をskinned fiber法により測定した。正常部の張力特性は最大発揮張力,短縮速度とも若干低下するが有意差はなく機能が保たれていることが示された。また,損傷線維の収縮特性から,その筋線維タイプは速筋型であることが示され,11・12年度に組織化学的に検討したタイプ別の伸張性収縮に対する易損性と一致した結果が得られた。次に,損傷筋において一横断面上の筋線維数を算出した結果,対照群3309本に比べ損傷筋では3872本と有意に高値を示した。このことは損傷筋内に再生筋線維と考えられる極細線維が多数観察された結果であり,増殖あるいは枝分かれ線維の発生が原因と考えられた。60回の伸長性収縮を与え5週間経過した回復後の線維を実体顕微鏡下で観察した結果,この極細線維は腱から腱までの一本の筋線維ではなく,枝分線維であった。回復筋の連続横断切片(10μm厚)を長軸に沿って5mmに渡り作成し,Harris & Eosin染色像を各横断面毎にトレースし,さらに立体構造を再構築した。この結果,極細線維は単に母線維が2分するのではなく,枝分かれが数カ所見られるもの,分れた先が他の枝分かれ線維と融合するもの等,非常に複雑な形態を示していた。skinned fiber法により測定した枝分部を持つ母線維の収縮機能,組織化学的に調べた代謝特性など正常速筋型線維とほぼ同様の特性を有していた。しかし,細い枝分線維は協同筋切除による慢性刺激に対しても肥大能力を持たず,成長因子に欠陥を有するものであり,再生時に何かの機能を失うことが示唆された。
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