エネルギー代謝から見た中枢神経細胞の特徴は、もっぱら糖代謝を中心とする有酸素的エネルギー産生にある。この産生機能を維持するのが血管系である。この血管系、特に毛細血管系の障害は、中枢神経細胞に重篤な機能障害をもたらす。例えば、血管系異常を主因とする痴呆症や遅発生細胞死は、その代表例である。脳機能の改善や老化防止において、血管網の改善は極めて重要な用件となる。最近、持久的運動が小脳での血管網を発達させると報告されているが、小脳は、運動実行に直接関与する領域である。しかし、運動実行の直接的領域での運動性血管新生に関する知見は皆無である。そこで、短期記憶や情動行動に関与する海馬体において、持久的運動が血管網の発達に寄与できるか否かを検証した。実際には、Wistar系雄ラットに2時間の水泳運動を6週間トレーニング形式で負荷し、血管の体積を組織化学的切片から算出した。その結果、トレーニング群と安静対照群の間に海馬CA1の全体積に有意な変化はなかった。しかし、毛細血管の体積では、安静対照群よりもトレーニング群の方が有意に大きな値を示した。さらに、無負荷でトレーニングをした群では、体重の1.5%に相当する重りを負荷した条件でトレーニングを行った群よりも、毛細血管の体積は、有意に大きな値であった。以上の結果から、持久的運動が、海馬CA1領域の血管新生に有効であるとともに、強度の強い運動よりも軽度な運動の方が血管新生に有効であることが分かった。
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