短期記憶や情動行動に関与する海馬体の正常な機能を保持するためには、毛細血管系の老化防止や積極的な発達・新生が重要である。この観点から、本研究では、運動が海馬体での毛細血管系の発達や新生に及ぼす効果と、そのメカニズムについて検討し、効果的な運動処方を構築することを目的として実験を行った。実際には、2時間の持久的水泳運動を成熟雄ラットに、急性的、慢性的に負荷し、海馬体での代謝応答や血管新生に関与する遺伝子群の発現応答等について調べた。 1)急性水泳負荷実験 a)無負荷、および体重の1.5%と3%に相当する重りを負荷した3条件で水泳運動を負荷し酸素需要量と組織酸素分圧を測定した。その結果、3群間に差はなかったが、海馬体での酸素分圧は、15%の重り負荷時に最大値が得られた。 b)海馬体での細胞外乳酸値は、負荷強度が強くなるにつけて指数関数的に増加し、細胞外グルコース濃度は、負荷強度の増加にともなって急激に減少した。 2)慢性的水泳負荷(トレーニング)実験 a)無負荷条件下での水泳トレーニングは、海馬体CA1領域での毛細血管径の拡張を促し、1.5%負荷条件下では、毛細血管の新生を誘導した。 b)無負荷と1.5%負荷条件でのトレーニングが低酸素誘導因子と内皮細胞由来の血管新生因子のmRNA発現を増強させ、負荷強度が強い方が、それらのmRNA発現量が有意に大であった。 これらの結果から、最大酸素摂取量の60-70%程度の負荷強度がラット海馬体での血管新生を誘導するのに適したものと解された。
|