[目的] 末梢の呼吸循環器系や筋系の持久的能力の改善や向上として用いられている水泳トレーニングが、中枢神経系に及ぼす効果を短期記憶に関与するラット海馬体CA1御或を対象に検討した。 [方法 動物] Wistar系雄(8週齢)ラット、トレーニング、2時間の水泳/日、5回/週;最長6週間、グループ:(1)荷重群:loaded group(体重の1.5%に相当する重りを加重し水泳)(2)無荷重群:unloaded group(重りを加重せず水泳)(3)安静群:control group(2時間の入浴安静)、トレーニング効果の評価(I)Morrisのwater maze test(II)毛細血管の形態計測(III)HIF-2αとVEGFのmRNAの定量 [結果と考察] I.場所記憶の保持能力がトレーニングにより向上する。 II.2トレーニング群の海馬体CA1領域の体積は、安静群のそれと差が無かった。これは、トレーニングによるCA1領域の膨潤が認められず、形態計測値の群間比較が可能であることを示唆している。 III.アルギニン陽性細胞の頻度は、2-3%で、3群に差が無かった。これは、運動性細胞変性がこの運動強度と期間に於いて発症せず、組織傷害性の血管新生を考慮から除外できることを示唆している。 IV.毛細血管径の分布を見ると、安静群に比べて小径毛細血管(直径5-6μm)の割合が荷重群で高く、大径毛細血管(直径7-8μm)の割合は、無荷重群で高かった。前者の変化は、血管の新生を示唆し、後者は、血管径の増大を意味している。この解釈は、2トレーニング群の血管間の平均距離が、安静群に比べて短縮したことにより支持された。 V.HIF-2αとVEGF mRNAの発現量は、安静群に比べて、2トレーニング群に於いて多かったが、2トレーニング群間には、発現量に違いが見られた。すなわち、荷重群の発現量は、トレーニング期間を通して、安静群より有意に多いのに対して、無負荷群のそれは、トレーニング後半に於いて安静群と差が無い水準まで発現量が減少した。 [結論] 持久的水泳トレーニングが(1)短期記億(場所)の保持能力を高める。(2)毛細血管網の発達(軽度負荷)と血管新生(強度負荷)を誘導する。(3)毛細血管の発達・新生に関与する遺伝子群の発現を増強する。
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