物体を指先で摘み持ち上げ、さらに空間で保持しようとするとき、もしも把握物体の重心線と指の把握圧力中心が一致しなかった場合には物体が把握面で回転運動を起こそうとする。その回転運動を阻止して把握物体を安定保持しようとする場合には把握面と指先との間にトルクが発生する。本研究は把握物質と指との間に生ずる『トルク(回転力)』の把握運動制御(feedforward系およびfeedback系)に及ぼす影響を調べることを目的とした.平成11年度は、まず、実験装置として小型力量・トルク計測用センサー2台、光学的位置センサー装置を装備した把握力・トルク量計測用の器具を設計および作成、さらにデータ収集および解析(指の把握力、持ち上げ力および圧力中心周りのトルク量計算、把握器の回転角度、角速度計算)のためのソフトも開発に時間を費やした.また、それらを使用して被験者にとってトルク量が既知(予め経験した)の場合の把握力と持ち上げ力の時間的パターンについての実験の実施、被験者にとってトルク量が未知の場合の把握力と持ち上げ力の時間的パターンについての実験を実施した。実験の結果としては、トルク量が既知の場合には物体の回転がほとんど認められない状況で持ち上げ運動が遂行されることが明らかになった.また、トルク量に比例して把握力も準備され発揮されることが明らかとなった.一方、トルク量が未知の場合には前回の持ち上げ時のトルク量の記憶を利用する戦略がとられることが明らかになった.トルク量が未知であるために多くの試技で持ち上げ時に物体が回転を起こしてしまうが、その修正には把握力の急速な増加がまず発生し、続いて、持ち上げ力の増加による修正、さらに手首の伸展または屈曲運動によるキネマテックな修正がなされることも今回明らかになった.
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