主に英・独を中心としたスポーツクラブにおける公共性の歴史社会的な構成の特徴とわが国の総合型地域スポーツクラブ構想への適用の可能性を明らかにすることについては、次のような分析結果が得られた。すなわち、1)そもそもヨーロッパにおいては、スポーツの公共性を保持する空間(公共圏)とは市民個々人の教養を背景とした対公権力への自由な私的交流空間によって担保されており、それが「下からの」社会的構成単位をなし、さまざまなフォーマルな社会的諸領域に対する市民的発想とその発展への原点となっていること。2)この意味で、わが国の総合型地域スポーツクラブの構想は、従来の種目間、世代間の枠を越えた「交流」「交歓」を中心的なコンセプトとしており、新たな公共性構築への可能性を持っていること。3)しかし、このような動きは、従来のわが国のスポーツ行政組織や制度の延長線上で構想されており、この限界を打破するためには公共性を担保する「私的交流空間」の意味やその歴史的概念及び条件、あるいはわが国の近代スポーツ発展における「公共性」概念の歴史社会的な構造的諸問題を明らかにして、これまでの何をどのように生かし、逆に何をどのように克服すべきか、をより一層明らかにしなければればならないこと。 また、上記の分析結果に基づき、地域スポーツのみならず、生涯スポーツの基盤を構成する学校スポーツにも調査範囲を広げ、行政組織や学校組織における「上からの」スポーツ施策や公共性構築の限界をさまざまな角度から議論し、指摘した。とくに、組織的な観点からみた高齢者スポーツ、学校部活動と地域スポーツクラブとの関係、スポーツ環境などの諸問題について発表した。さらに、来年度の課題としてスポーツ行政レベルにおける公共性を組織的な観点から明らかにするために、基礎的なインタビュー調査に着手した。
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