研究概要 |
実験にはWistar系雄性ラット40匹を用いた.これらをコントロール(C)群とトレーニング(T)群とに分け,T群には1日1時間の持久性トレーニング(ランニング運動)を10週間行わせた.トレーニング終了後,各々の群を運動を行わない安静(CRおよびTR)群と一過性のランニング運動を行う運動(CE群およびTE)群とに分け,運動群には勾配10%,速度毎分27.5mの強度で疲労困憊に至るまでランニングを行わせた.運動終了直後に,後肢よりヒラメ筋および足底筋を摘出し,分析に用いた. 筋小胞体Ca^<2+>依存性ATPase(SRCa^<2+>-ATPase)活性についてCR群とTR群とを比較すると,ヒラメ筋では差異はみられなかったが,足底筋ではTR群に低値が認められ,トレーニングにより速筋のSR Ca^<2+>-ATPase活性が低下することが示唆された.また,安静群と運動群の比較では,両筋ともにC群とT群の両方に運動群において低値が観察された.運動群における1分間当たりのSR Ca^<2+>-ATPase活性の低下速度を算出したところ,足底筋ではCE群-0.035,TE群-0.006,ヒラメ筋ではCE群-0.019,TE群-0.009であり(単位-μmol/min),持久トレーニングによって,SR Ca^<2+>-ATPase活性値の低下速度が著しく抑制されることが認められた. SR Ca^<2+>-ATPase活性が低下する要因の1つに,筋活動に伴って発生する活性酸素種がSR Ca^<2+>-ATPaseタンパクを酸化することが,先行研究によって示唆されている.本研究で認められた一過性の運動によるSR Ca^<2+>-ATPase活性の低下にも,タンパクの酸化が関与していることが考えられる.この可能性を検討するために,還元剤であるジチオトレイトール(DTT)を反応溶液に添加しSR Ca^<2+>-ATPase活性を測定したが,DTTを添加しない場合と比較し全ての群において変化がみられなかった.この結果から,一過性の持久性運動によるSR Ca^<2+>ATPase活性の低下には,SR Ca^<2+>-ATPaseタンパクの酸化が原因していないことが推察される.
|