研究概要 |
スポーツや運動を教材とする体育では,生きた人間である学習者が,教材化されたスポーツや運動と出会う.体育が学校教育における教科としての独自性を保つためには,その教材として用いられるスポーツや運動を学習することが,人間の生の経験に対して持つ普遍的な意味を明らかにする必要があろう.本研究では,(1)人間にとってのスポーツや運動の普遍的な意味を探り,(2)それによって導き出される体育の本質を示した新しい体育論の構築を試みようとした. スポーツや運動の学習が人間の生の経験に対してどのような意味を持つかという問題に答えるには,人間を総合的に捉える哲学的人間学のアプローチが不可欠だといわれているが,先行研究を検討した結果,ハンス・レンクが主張する哲学的人間学の立場からのアプローチが最適だということが明らかになった.したがって(1)については,レンクの哲学的人間学のアプローチに支えられて研究が進められ,スポーツや運動には「人が生きる」という契機が必ずや存在するということ,体育がスポーツや運動を教材として用いる以上,そこで行なわれる学習は「人が生きる」ということを中心に据えたものでなければならないということ,体育の本質はスポーツや運動の学習を通した人間の教育にあるということが明らかになった.(2)については,次年度以降の課題であるが,哲学的人間学の立場から捉えた体育の本質とは何かということ,それが特にわが国における今後の体育論を強靭なものとするか否かということを検討しながら,研究を進める予定である.
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