筋の構造要因である筋線維長は、筋の機能的な指標であるミオシンATPase活性とともに、筋の収縮速度を決定する重要な因子と考えられている.この筋線維長とスポーツ・パフォーマンスとの関連性を確認するため、陸上短距離選手と長距離・マラソン選手の下肢筋群における筋線維長の比較を行なった。その結果、短距離選手の筋束長(筋線維の束)は長距離選手のそれよりも明らかに長く、その差は3〜4割にもおよぶものであった。さらに、男女の短距離100m選手のスプリント能力と筋束長との間には有意な相関関係が観察された。スポーツ選手にみられる筋線維長の固体間差がどのような要因によって決定されているかを一卵性双生児を対象に検討したところ、筋線維長を含む筋形状は基本的に遺伝的な要因によって決定されているものの、一卵性双生児間でも大きな差が認められるペアーが存在することから、環境要因によっても変化する可能性が示唆された。そこで、大きな筋肥大が認められる相撲選手の筋形状を観察したところ、筋肥大の程度によって筋線維のサイズ増加に伴う筋束角の上昇がみられる筋と、すでに筋線維長の増加が起こっている筋が存在した。その後、サッカー選手を対象とした利き脚と非利き脚の比較から、筋肥大によって筋線維長が増加する可能性が再度確詔された.これらの結果から筋肥大にともなう筋形状の段階的な適応モデルを提案した。最終的には、同一固体を用いたトレーニングによる筋肥大とそれに伴う筋形状変化の経過観察調査が必要であるが、トレーニング実験6ヶ月時点では筋肥大による筋束角の上昇はみられるものの筋束長の明らかな変化にはおよんでいない。さらなる長期観察が必要である。
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