研究概要 |
唾液は日常の歯科診療において得やすい生体試料であり、被検者(特に小児や高齢者)に苦痛や侵襲を与えずに試料を採取できる利点がある。唾液は血液を原材料としているので血清成分を反映している上に、外来物質の侵入を防御する役割を担っていたり、口腔内の恒常性維持に深く関わっていたり,最近ではある種の遺伝子解析の材料としても利用されている。したがって、唾液を試料として各種疾患のスクリーニングや診断の指標として用いることはきわめて有用なことと考えられる。本研究では運動領域ばかりではなく健康領域全般における唾液モニタリングの有用性について検討を加えた。1)精神的疲労度や抑鬱度は従来,心理テストによる判断が主であったため,客観的判断に乏しいとされて来た。本研究では唾液中のストレスタンパクに着目し,主観的判断と客観的判断の関連について検討を加えた。高地トレーニング前後並びに箱根駅伝予選会前後における唾液ストレスタンパクの変動を比較した。その結果,心理テスト(POMS)での抑鬱度や疲労度の数値とストレスタンパク濃度の間に有意な相関関係が得られた。今後,数種の唾液物質濃度の変動からストレスが肉体的なものか精神的なものかを判断し,臨床に応用していく予定である。2)さらに,骨密度の高い運動選手(柔道・ハンドボール)と低い選手(駅伝)における唾液中のカルシウム濃度に関して測定を行った。その結果,血清中や尿中のカルシウム濃度に関しては有意な関係は無かったが,唾液カルシウム濃度と骨密度の間には有意な相関関係が得られた。したがって,唾液カルシウム濃度を骨粗鬆症のスクリーニング値とする可能性が得られた。
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