研究概要 |
唾液は血液を原材料としているので血清成分を反映している上に,日常において得やすい生体試料であり、被検者に苦痛や侵襲を与えずに試料を採取できる利点がある。したがって、唾液を試料として各種疾患のスクリーニングや診断の指標として用いることは有用なことと考えられる。ここでは唾液中のクロモグラニンA(CgA)とsIgAに着目し,POMS検査による感情尺度との関連について調べ,精神的ストレスマーカーとしての有用性について検討した。大学駅伝男子選手を対象とし,安静混合唾液の採取とPOMS検査をそれぞれ行った。唾液中のsIgAとクロモグラニンA(CgA)の測定はそれぞれ目的物質を特異的に検出する抗体を利用してELISA法を用いて測定した。CgAはBradford法で測定した唾液タンパク量で補正した。その結果,1.sIgA濃度:合宿前後では変化は見られなかったが,試合前に比べて試合後は高値を示した。2.合宿前後のsIgAの変化量(d-sIgA)と合宿後の活気度得点との間には有意な正の相関関係(p<0.05)が親察された。3.試合前後のCgAの変化量(d-CgA)と試合後の活気度得点との間に有意な負の相関関係(p<0.05)が認められた。これより,d-sIgA量の増加にともなって合宿後の活気度得点が増加していることからハードトレーニングで身体的に疲労している場合でも精神的に充実しているものはsIgA濃度も高値を示すが,心身ともに疲れきったものはsIgA濃度も減少し,易感染しやすいと考えられる。また,試合後の活気度得点とCgAの変化量の関係から,試合による肉体的疲労よりも試合結果のダメージによる心理的ストレスの度合いが試合翌日後の活気に影響を与えていると考えられる。本実験から,唾液中のsIgAとクロモグラニンAはストレスマーカーとして利用できることが示唆された。
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