研究概要 |
長距離選手の赤血球数(RBC)を長期にわたって測定すると、統計学的に有意な減少が起きていた(p<0.05)。このようなRBCの低下は血液粘度(cP)と強い相関関係にあり(r=0.89,p<0.05)、血液粘度は低下し、心臓-血管系への軽減が考えられた。しかし、酸素運搬系の中心となるヘモグロビンの立場から見ると極めて矛盾した現象であった。ところが、RBC低下時のMCV並びにMCHを見ると、これらの指標に、代償的増加が起こり、統計学的にも有意な変化であった(p<0.05)。このような変化は10000m走,並びに5000m走の記録の更新と相互関係にあり、特にMCV × MCH indexは持久性トレーニング期間に見られる記録更新時期と一致していた。 MCVとplasma HDLとの間には高い相互関係を示す選手と、全く関係を示さない選手があり、その割合はそれぞれ50%であった。この背景は持久性トレーニングに伴うplasma HDLの変化にあり、plasma HDLの低い選手(40〜50mg/dl)並びに高い選手(100mg/dl)では持久性トレーニングを継続しているにもかかわらず、全く変化がなく、60〜90mg/dlの範囲の選手で持久性トレーニングに伴う増加が認められた。MCV-plasma HDL関係の持つ意義を10000m走の記録との関係から求めると、これらの間には指数関係(r=0.59,p<0.05)が成立し、高い記録を持つ選手では高い相関係数を示し、低い記録の選手ではこれらの間に相互関係が見出せなかった。これらの結果から、長期観察で認められる持久性トレーニングの効果は単にRBCの減少、血液粘度の低下に止まるだけでなく、赤血球膜そのものを変化させていることが明らかとなった。
|