研究概要 |
冷刺激の神経性トレーニングの有用性を実証するための基礎的データを収集するために,5つの実験を行った。1)最大随意収縮ランプ負荷における冷却刺激の影響を検討したもので,冷却刺激を用いることで従来,筋力トレーニング負荷として用いられている強度よりも低い強度でHT-MUsの参画が得られ,高い筋力トレーニング効果が期待できることが示唆された。2)対側肢からの皮膚感覚入力の影響を検討したもので,実験肢冷却はHT-MNに促通的影響を及ぼすが,対側肢冷却は抑制的に影響を及ぼすことが示唆された。従って,冷却トレーニングを行う場合は,目的とする部分のみを冷却することでトレーニング効果をあげることができることが示唆された。3)ランプ収縮張力勾配の違いに対し皮膚感覚系からの入力の影響を検討したもので,皮膚感覚系からの入力とMUsのfiring rateの関係によって脊髄のmotoneuronへの影響が異なることが示唆された。ランプ収縮を用いての筋力トレーニングは,ランプ収縮張力勾配の大きいfastランプ収縮を用いる方が有効であることが示唆された。4)eccentric収縮時への冷刺激の影響を検討したもので,eccentric収縮時に比べHT-MUsの活動はconcentric収縮時の26℃付近の条件でもっとも高い確率で動員されることが示唆された。冷却刺激によるトレーニングはconcentric収縮に有効であることが示唆された。5)全国上位100m記録保持者に対するアンケート調査によるもので,速筋が重要な要素となる100mの記録と出生地の気温との間に有意な関係が示された。出生から中学生期までの環境温度によって皮膚感覚系からHT-MNsに対し選択的な影響を及ぼす機構の変化が起きている可能性を示唆するものである。低温環境下での速筋の選択的トレーニング法は記録向上にとって有効な方法であることが示唆された。 以上の結果より,冷刺激を用いたトレーニング方法は速筋の選択的トレーニングとして有効であるものと結論された。
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