本研究は、何らかの理由で立位障害および歩行障害を有する場合に用いる手動車いすの駆動パワーについて測定研究を進め整理したものである。手動車いすは、前述のようなケースでの使用のみならず、今日では車いすテニス、車椅子バスケットボール、車椅子陸上競技など多くのスポーツ場面で使用される「スポーツ用具」の一部ともなっている。このためスポーツにおける記録や成果向上にとってもこの車いすを駆動する能力は大きな影響を及ぼしている。手動車いすの駆動パワーの主な運動発現は、車輪やハンドリムに回転力を与える上肢の筋運動であり、これを補助する体幹の前屈運動である。また腰部や下肢の運動機能もこれらの駆動パワー発揮時の姿勢保持やバランス保持で影響がみられる。従って上肢運動や体幹の運動制限を伴う肢体不自由者や脊髄損傷者の手動車いす駆動パワーは、障がい者スポーツにおけるスポーツパフォーマンスに大きな影響をもたらすことが推測され、今回、手動車いす駆動パワーに関わる現状と整理を行った。手動車いす駆動パワーについは、腕エルゴメニターおよび脚エルゴメーターを用いたパワーを測定して検討をした。また、実際の手動車いすの駆動パワーについても事例的測定であるが、速度による変化を測定してその駆動パワーの特性を明らかにした。 腕パワーと脚パワーの比較では、腕パワー値は鍛錬大学生15名の平均値は、脚パワーの約60%と低くなることが示された。また、手動車いすのタイプによって発揮する駆動パワーに差が見られ、陸上競技用車いすレーサーの駆動パワーが最も低くなったが、速度が増加するにつれてそのパワーも高まることが明らかになった。
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