本研究では、輸送ネットワークの地域的不均等発展の過程を、数理モデルの構築を通して理論的に説明することが目的である。その際に、数理モデリングと地理情報システム(GIS)を結びつけて、より視覚的に現象のシミュレーションを行うつもりである。 本年は、この目的の第1段階として、地理情報システムの操作に習熟すると同時に、基本的なデータ入力を行った。そして、ジャネルの「時空間収束」概念、アレン・サングリエの「自己組織化」モデルを援用しながら、輸送ネットワークの地域的不均等発展に関するシミュレーション・モデルを構築した。モデルの特徴としては、歴史の変革期においてたまたま交通革新が行われた地域で時間距離空間が大幅に収縮し、今度はその地域に含まれる諸都市が都市間競争において相対的優位性をもつために再び交通革新の投資が行われやすいという、地域的不均等発展の過程を、非線形非平衡システムのモデルとして定式化したことである。このモデルのシミュレーションによって、当初は地域的差異がほとんんどない空間において顕著な中心・周辺関係が生み出され、事後にはこの関係が固定化される様子を描き出すことができた。 この結果を、日本の近代都市および交通の発達史と対照させながら、平成11年11月に人文地理学会で「交通網の時空間収束と都市集積のモデル研究」という題名で口頭発表した。またこの発表に付随したテーマで、雑誌『地理』誌上で、クリスタラーとレッシュの中心地理論について、現代的意義をまとめた。
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