今年度も、環境保全型農業(以下を保全型農業)を実践する農家やグループの代表者に、この農業について実践の実状をインタビューする中から、この定着と発展の要因を考えてみた。最初に、これまでの事例研究の蓄積において、地理学で保全型農業を理解する場合の考え方を報告した。報告を概略する。たとえば、保全型農業には狭い考え方と広い考え方の2つがある。狭い考え方とは化学肥料・農薬、除草剤などの生産資材を大量に使ってきた近代的農業いわゆる慣行農業を再検討しつつ、保全型農業では資材を減少させるかあるいは使用しないで、農産物に付加価値を与えて高価格で販売するものである。保全型農業は経済的・経営的戦略の視点で導入し、定着・発展させようとする考え方である。一方、保全型農業の広い考え方は、資材をあまり使わないかまったく使わないことで農産物の安全性や販売戦力を担保しつつも、それ以上にこれらを生産する農業・農村地域の自然、自然環境そして生態系を保護・保全し、豊かな景観を創造することに重きを置く。同時に、農業・農村地域で生活する住民が健康で豊かな生活を継続させようとするものである。つまり、保全型農業を実質的なものにする場合、とくに認証制度が現実のものになった状況を考慮すると、点から面への広がりが重要となってくる。地理学が、「自然と人間との関係性」を明らかにする研究だとするならば、保全型農業の理解も、広い考え方の視点で分析する必要が求められる。保全型農業が農業・農村地域で導入され、定着・発展しているかどうか、その成熟度を判断する場合、広い考え方をどの程度に考慮しているかである。現在、これまでの事例研究はこの視点で再整理している。別の報告では大都市近郊における保全型農業の実践事例を調査したが、農業経営の継続さえも困難を極めていながら、さらに保全型農業を導入し定着させようとしている背景と要因を分析した。
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