最終年度では、まず、わが国の太平洋沿岸、日本海沿岸、さらに非外洋性海浜から190地点のデータを収集・解析し、砂浜海岸における陸上部の地形の1つである暴浪の遡上限界すなわち後浜上限高度を調査した。この高度に大きな影響を与える要因としては(1)襲来波浪、(2)波浪に対するフィルター効果をもつ沿岸砂州(バー)の数や(3)海浜の底質粒径がある。これらのデータを解析した結果、後浜上限高度は底質粒径に大きく支配されるとともに、外洋性海浜においてはバーの数で代表されるフィルター効果が顕著に現れ(すなわちバーの数が多いほど高度が低く)、非外洋性海浜ではその効果はほとんどなく、襲来波浪の規模が重要であることが明らかにされた。 このように外洋性海浜においてはバーの数の重要性が明らかとなったため、次に、バーの数が何によって決定されるのかという問題に取り組んだ。太平洋ならびに日本海沿岸から合計25地点を選定し、地形特性、波浪条件、底質粒径のデータに次元解析の手法を適用して要因間の結びつきを調べた結果、バーの数はBreaker-type index(砕波の波形勾配と浅海域の勾配)の3/2乗で表せることがわかった。これには底質粒径の影響は直接には包含されていないが、浅海域の勾配という要因の中に間接的に含まれていることも判明した。また、日本海沿岸ではほとんどが多段バーを示すが太平洋沿岸では1段バーが多いということに対する理由として、両海域での波候(wave climate)の違い(前者では風波、後者はうねりが卓越)を考えた。どちらの沿岸域においても、バーは暴浪によって形成され、底質粒径が同じ場所であるならばほぼ同数のバーができるが、日本海沿岸では風波の減衰特性によりバーの形態が維持されるのに対して、太平洋沿岸では一度形成されたバーが暴浪後の、あるいは暴浪間のうねりにより平坦化されてバーの段数が減少するためである。
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