1)日本で公式に気象観測が開始される以前の1820年代以降、旧出島(長崎)においてオランダ人医師らによって継続的になされた詳細な気象観測記録を、オランダ気象研究所の協力を得て入手し、ほぼすべてをデータベース化した。 2)観測記録には、1日の観測回数の差異、現在の気象台との位置的差異などがあるため、これらを統計的手法を用いて補正する必要がある。複数の補正方法を用いて気温の補正を行った上で、現在の公式気象観測記録(1878-2000)と結合させた結果、1820年代以降180年間の長崎における気温変動が明らかになった。180年間の年平均気温の時系列から、長崎の気温は20〜30年程度の周期的な変動を繰り返しながら、1920年代以降に温暖化が顕著になっていることがわかった。また、海面気圧データについても補正を行い、気象庁の観測記録と接続した時系列が得られたが、180年間での顕著な傾向は認められなかった。 3)一方、長崎県諫早市には1700年以降1868年までの毎日の天候記録が藩日記に記載されており、出島のオランダ気象観測記録と重複するため、日記天候記録から推定される気温変動を検証することが可能である。長崎県立図書館に所蔵されている上記の日記から天候記録を収集して、データベース化した。 4)本研究の最終目的は、上記の3種類の異なる気象データ(日記天候記録、オランダ気象観測記録、日本の公式気象観測記録)を結合して過去300年間の気候変動を解明することであり、冬季(1月)における降雪率と気温との相関関係から長崎における冬季の気候変動の一部が明らかになった。特に注目すべき結果として、冬季には19世紀よりも18世紀の方が高温であったと推定されたことで、小氷期の気候変動解明に重要な糸口を与えるものである。
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