研究概要 |
歴史時代に噴火を繰り返した伊豆諸島のうち,神津島における西暦838年(承和5年)の天上山の噴火と西暦886年(仁和2年)の新島における向山の噴火によるテフラの識別と分布追跡調査を行った。八丈島では天上山または向山のテフラを西山火山の噴出物(Ny2とNy3)の間の層準に追跡したが、いずれのテフラも発見できなかった。三宅島では津久井ほか(1998)で雄山スコリア層を挟んで上下に天上山テフラと向山テフラがあるとされているが,向山テフラの存在については再検討の必要がある。御蔵島には最上部の表土中に天上山テフラが断続的に挟まれる。神津島では天上山テフラが島全体を覆うが,向山テフラは識別できない。式根島では天上山テフラの上位に向山テフラ(火砕サージ堆積物)が識別されている(1985)。新島では向山ベースサージ堆積物の直下に天上山の降下テフラが認められる。利島には神津島・新島起源と考えられる多数のテフラが認められるが,このうち,最上部の表土層中に灰白色火山灰が認められ、天上山起源のテフラと考えられる。大島では新期大島層群のN3.0テフラ(小山・早川,1996)間に灰白色火山灰層が認められている。これについては古文書で房総半島南部にまで達した向山火山の噴出物とする考えもあるが、天上山テフラである可能性も否定できない。なお房総半島先端の館山においてパーカッション式とシンウオール式のボーリングを行い、採取試料中から火山ガラスを検出したが、テフラ同定には至っていない。天上山テフラは伊豆半島から静岡平野方面に達しているが、その分布状況、噴火様式、噴火当時の気象条件については今後も検討が必要である。
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