研究概要 |
本研究は,空間評価における個人差研究の一環として認知心理学的な立場からU.NAISSERの「予期図式概念」に着目するものである。「予期図式」に注目した理由は,個人差としての各個人の経験にもとづく空間イメージの形成過程を予期図式の修正として説明しうると考えたためである。平成11年度申請では,評価対象空間を盛岡市の景観とし,盛岡市の景観評価の核となる「自然との調和」に関する予期図式が総合的な好ましさ評価にいかに影響するかを検討することとした。被験者は岩手大学学生50名で,21枚の写真エレメントを用いて「好ましさ」を問う実験A,「自然との調和」を問う実験B,およびラダーリング実験を行った。 分析によって得られた結果は以下に要約される。 1.盛岡市の景観の評価構造をネットワーク図として捉えることができ,「自然との調和」の評価系の有無を含めた複数の評価系を確認できた。 2.「好ましさ」と「自然との調和」の個人別相関分析により,相関の高さと「自然との調和」の評価系の有無との関連が認められ,盛岡市の景観評価における「自然との調和」を視点とした「らしさ」の存在を事実として捉えることができた。 3.「自然との調和」の評価系の有無が好ましさに影響しない写真エレメントを特定できた。 4.被験者特性が評価に及ぼす影響度の分析では「自然との調和」の評価系の有無の影響度は低かった。一方,最も大きな影響力を持つ要因は色彩の好みであり,予期図式形成における色彩の役割に注目できる。
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