本研究は、居住経験が空間評価において個人差を形成するプロセスの解明を目的とするものである。個人差研究の技法としてPAC(Personal Attitucle Construct:個人別態度構造)分析に注目し、さらに認知心理学的な立場からU.NEISSERによる「予期図式」を説明概念として位置づけることで得られた研究知見の説明を試みた。呈示刺激は、言葉および盛岡市の景観写真5種類、被験者は盛岡市の居住年数2年・10年を軸として選定された岩手大学学生9名である。 以下、得られた研究知見は以下のように要約される。 (1)街路空間評価においては、居住経験が2年以下の場合、景観構成要素が個別的に「図」となりやすい。マイナス要因は共通に「図」を形成しやすく、プラス要因が被験者の趣向性を反映して個人差となって表れていた。一方、居住経験10年以上では、呈示刺激より自分自身の中で形成された空間イメージが優先し、街路のモノがほとんど「図」を形成せず、イメージ表現では形容詞が多用されていた。これら個人差の中に、一定のイメージ変容プロセスを捉えることができた。 (2)自然を背景とする景観の評価では、自然に対する「価値付け」が評価を大きく左右し、価値付けの範囲が何を取り込んでいくかに個人差が見られた。居住経験10年以上では、刺激全体が価値付けの対象となり、自然や文化的価値を含む景観の場合にも前述イメージの変容プロセスを確認できた。 (3)空間評価における個人差としての「図」の形成を成り立たしめる「地」の形成に「予期図式」を説明概念として適用し、空間評価のプロセスをモデル図として示すことができ、いわゆる「Filter-out現象」をFilterを通過してしまう意味で捉えるのではなく、逆にFilterの目地が詰まっていく過程として説明することができた。
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