成層圏におけるオゾン層により地上に棲息する生体は、有害な波長域紫外線の地表への到達からまぬがれてきた。近年、フロンや二酸化炭素などにより地球環境は急速に悪化し、とりわけ生命維持に必要なオゾン層の破壊による生体への影響が憂慮されている。 地球環境改善に向けて地球規模での取組が急がれる一方、紫外線の有害性と防御の重要性に対するコンセンサスも定着し、日常生活における紫外線対策として衣服や化粧品、自動車用ガラスなどにもその機能が要求され、紫外線遮蔽加工製品の開発、改良が行われてきた。しかし、これらの遮蔽効果の評価法として、これまで光学的測定法が広く用いられてきたため、人体への影響を必ずしも正確に評価してきたとは言い難い。人体への影響を直接評価する唯一の方法としてSPF法が用いられているが、被験者の皮膚を使うため、照射条件によっては被験者が危険に曝露される可能性もある。このような状況を踏まえて、被験者を使わずに生体への影響をよく反映できる評価法の開発を検討した。 これまでに、生体の代謝に不可欠な酵素の活性の変化を利用した測定法の開発を行ってきたが、人体の状態にさらに近似した評価法の開発を目指し、今年度はヒト由来の培養細胞を用いることを計画した。数種類の樹立培養細胞株を用いて紫外線照射し、培養細胞中のp53タンパク質の挙動とアポトーシスを観察した。 p53タンパク質は、細胞周期の調節やアポトーシスの選択に関与していることが明らかになってきていることから、生体の反応をみる上で重要なタンパク質であると考えられた。免疫組織染色により、これらの挙動を測定する方法を検討した結果、この測定系は、人体を使わずに紫外線遮蔽加工製品の遮蔽効果を生物学的に評価する方法として利用できることが示唆された。
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